大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)546号 判決

主文

原判決中、第一審判決が訴を却下した部分についての控訴を棄却した部分並びに第一審判決中の訴却下の部分を破棄する。

被上告人は上告人に対し金一〇円を支払うべし。

上告人のその余の上告を棄却する。

訴訟費用は全部上告人の負担とする。

理由

上告人の上告状記載の上告理由、上告理由補追書および上告理由訂正書について。

原審が当事者間に争なきものとして判決の基礎とした事実は、上告人は被上告銀行が昭和九年一〇月売出価格一〇円で発行して売出した額面金二〇円の割増金付割引勧業債券一枚(原判示の回、組、番号のもの)を所持しているが、右債券は償還の際金二〇円を支払う約のものであるところ、昭和三二年四月一日より臨時繰上償還がなされることになつた、というのである。

原判示の本件割増金付割引勧業債券売出当時においては純金七五〇ミリグラムが一円とされていたのにわが国が国際通貨基金に加盟したのに伴いわが国貨幣の対外価値が純金二・四六八ミリグラムが一円と定められたことも、また、右債券売出後その償還期限までの間に他にいわゆる平価切下が行われたことのないことも、ともに顕著な事実であり、そして、金硬貨による支払の特約若しくは償還期限における貨幣価値の著しい騰落のあつた場合債券売出当時の貨幣価値を償還期限のそれに引直した金額によつて償還金を支払う旨の特約がないかぎり、債券発行売出銀行は償還期限に債券面記載の償還金額を支払うをもつて足りると解しなければならない。本件債券につきかような特約のあつた事実は原判決の判示しないところであるから、論旨主張の如き理由により本件債券につき増額評価が認められるべきものとはなし難く、右債券の償還としては、貨幣価値の下落があつたとしても、被上告人は償還当時の貨幣をもつて弁済することにより免責されるものといわなければならない。さればこの点に関する論旨は採用できない。

次に、第一審判決は、本訴のうち金一〇円の支払を求める部分は訴の利益を欠く不適法のものであるとの理由からこの部分を却下したところ、原判決はこれを是認して上告人の控訴全部を棄却した。けれども、上告人の本訴請求に対し被上告人は請求棄却の判決を求めて争つているのであつて、本件金一〇円を被上告人が任意支払わないとの事実は上告人において主張しなければならないものではなく、右事実の存否は右金員の支払を求める訴の利益の存否と何らかかわりあるものではないから、第一審判決が右金一〇円の支払を求める請求部分について訴の利益を欠くものとして訴を却下し、原審がこれを肯定して控訴を棄却した判断は違法であつて第一、二審判決中右の部分は破棄を免れない。そして冒頭に示した事実によれば前段説示の理由により被上告人は判示繰上償還期以後債券面金二〇円の償還支払をなすべきものであるから、このうち金一〇円の支払を求める上告人の本訴請求部分は理由があること明らかである。

よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例